東京地方裁判所 平成9年(ワ)13938号・平10年(ワ)19004号・平9年(ワ)22293号 判決
被告(反訴原告・被参加人、以下「被告」という。) 佐藤真理子
右四名訴訟代理人弁護士 牧義行
同 近藤義徳
参加人 中本博
右訴訟代理人弁護士 熊谷秀紀
同 若江健雄
主文
一 被告佐藤治彦は、原告に対し、金六四六万三四五〇円及びこれに対する平成九年七月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告の被告佐藤治彦に対するその余の請求及びその余の被告らに対する請求をいずれも棄却する。
三 被告らの反訴請求をいずれも棄却する。
四 被告らは、別紙物件目録記載(一)の土地内に存する別紙図面表示<イ>、<A>、<B>、<C>、<イ>の各点を結ぶ直線で囲まれた土地内に建築物を建築してはならない。
五 原告及び被告佐藤治彦は、参加人に対し、連帯して金四四万四七九八円及びこれに対する平成八年六月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
六 参加人のその余の請求をいずれも棄却する。
七 訴訟費用は、本訴、反訴、参加を通じてこれを五分し、その一を原告の負担とし、その二を被告らの負担とし、その余を参加人の負担とする。
八 この判決は、第一、五項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 本訴
被告らは、原告に対し、各自二一一一万七二〇〇円及びこれに対する平成九年七月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 反訴
1 原告は、被告佐藤治彦(以下「被告治彦」という。)のために、別紙物件目録記載(二)、(三)の土地(以下それぞれ、「(二)の土地」、「(三)の土地」という。)上に、別紙図面(一)記載の建物を建築せよ。
2 原告は、被告治彦に対し、平成八年七月三一日から前項記載の建物の建築に至るまで、一日当たり二万一〇〇〇円の割合による金員を支払え。
3 原告は、被告治彦、被告佐藤良彦(以下「被告良彦」という。)、被告佐藤治子(以下「被告治子」という。)、被告佐藤真理子(以下「被告真理子」という。)に対し、それぞれ二二五万円及びこれに対する平成九年七月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 参加
1 原告及び被告らは、別紙物件目録記載(一)の土地(以下「(一)の土地」という。)内に存する別紙図面(二)表示<イ>、<ロ>、<ハ>、<ニ>、<ホ>、<ヘ>、<ト>、<チ>、<リ>を結ぶ線から、上空を含めて五〇センチメートルを越えて近接する範囲内に建築物を建築((二)、(三)の土地上に建築するものに限る。)してはならない。
2 被告治彦は、平成八年六月六日付け、八建公公風第一〇六号の大泉風致第二種地区内建築物許可の取下申請を行え。
3 被告治彦は、平成八年七月五日付け、練馬区第八一五号建築許可の取下申請を行え。
4 原告及び被告らは、各自、参加人に対し、金一〇六九万二五九五円及びこれに対する平成八年六月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
(本訴請求)
原告は、<1>被告らとの間で、(二)、(三)の土地(以下合わせて「本件土地」という。)上に建物を建築するという内容の請負契約(以下「本件請負契約」という。)を締結したが、参加人から、右建物は参加人が共有持分権を有する(一)の土地(以下「本件共有地」という。)に侵入して建築されているとの抗議を受け、工事の続行が不可能になった、<2>右のような結果になったのは、被告らが本件共有地に建物を建築しても支障がない旨説明したからであるから、原告は被告らの債務不履行を理由に右請負契約を解除し、建築途中の建物を解体した、<3>そこで、被告らに対し、連帯して、途中まで建築されていた建物の工事費相当額の損害賠償金二一一一万七二〇〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成九年七月一六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めると主張している。
(反訴請求)
被告治彦は、<1>本件請負契約の注文者は、被告ら全員ではなく、被告治彦のみである、<2>被告治彦は、原告に対し、本件共有地に建物を建築しても支障がない旨説明したことはなく、原告主張の本件請負契約の解除は効力を有さない、<3>したがって、原告に対し、本件請負契約に基づく建物の建築と、工事中止後である平成八年七月三一日から右建物の建築に至るまで一日当たり二万一〇〇〇円の割合による遅延損害金の支払を求めると主張し、さらに、被告治彦を含む被告らは、原告が根拠なく被告良彦所有の本件土地等に対する仮差押え(以下「本件仮差押え」という。)と本訴提起に及んだとして、不法行為に基づく損害賠償金各二二五万円及びこれに対する本件仮差押え後である平成九年七月八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めると主張している。
(参加請求)
参加人は、<1>原告及び被告らに対し、同人らが参加人の本件共有地に対する共有持分権を侵害する建物を建築するおそれがあるとして、共有持分権に基づく妨害予防として、上空を含めて五〇センチを越えて本件共有地に近接する建物の建築の禁止を求め、<2>被告治彦に対し、本件請負契約に基づく建物の建築のためになされた八建公公風一〇六号大泉風致第二種地区内建築物許可及び練馬区八一五号建築許可の申請取下を求め、<3>原告及び被告らに対し、本件請負契約に基づく建物の建築工事により、本件共有地上の井戸が損壊され、本件共有地が侵害され、参加人の人格権が侵害され、さらに、本件訴訟における被告らの主張や供述により参加人の名誉が毀損されたとして、不法行為に基づく損害賠償金一〇六九万二五九五円及びこれに対する不法行為の後である平成八年六月二八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めると主張している。
一 前提事実(証拠を掲げない事実は争いがない)
1 当事者
(一) 原告は、建物・構築物の設計、施工、請負及び監理等を目的とする株式会社である。
(二) 被告良彦は、本件土地の所有者であり、被告治子は、被告良彦の妻であり、被告治彦は、右両被告の長男であり、被告真理子は、長女である。
(三) 参加人は、本件土地に隣接する別紙物件目録記載(四)の土地(以下「(四)の土地」という。)の所有者である。
2 本件共有地の取得及び利用の経過
(一) 本件共有地は、本件土地がその四辺のうち三辺を取り囲む形で本件土地に隣接し、被告良彦が四分の二、参加人が四分の一、真保マサ(以下「真保」という。)が四分の一の持分権をそれぞれ有する(甲一八、三二、乙一、四、一三の一四、丙四七の一の<1>、<2>、丙四七の二、弁論の全趣旨)。
(二) 本件土地((二)、(三)の土地)、(四)の土地、本件共有地((一)の土地)及び真保所有の別紙物件目録記載(五)の土地(以下「(五)の土地」といい、(一)から(五)までの土地を合わせて「本件各土地」という。)は、もと、一筆の土地として見留健一郎(以下「見留」という。)が所有していたが、見留は、昭和四〇年八月五日、右土地を本件各土地に分筆し(以下「本件分筆」という。)、昭和四〇年八月一三日、(五)の土地と本件共有地の四分の一の持分権を真保の被相続人である真保豊次に売却し、さらに、同年一〇月三〇日、本件土地及び(四)の土地を本件共有地の四分の三の持分権とともに堀江義(以下「堀江」という。)に売却した。堀江は、同年一二月一八日、若松英藏に対し、本件土地及び本件共有地の四分の二の持分権を売却し、若松英藏は、昭和五二年八月二日、これを被告良彦に売却した。また、堀江は、昭和四一年六月三〇日、(四)の土地と本件共有地の四分の一の持分権を加藤一保に売却し、その後、昭和四七年一月二五日に参加人の被相続人である中本后子がこれを買い受け、昭和六〇年一一月六日、参加人がこれを相続により取得した。(甲一八、三二、乙一から四まで、丙一三、三六)
(三) 本件共有地には、共有者全員のための井戸(以下「本件井戸」という。)が存在しているが、本件井戸は、見留が、(二)ないし(五)の土地を分譲するに当たり、分譲地の購入者が共同で利用する簡易水道として新たに掘削して設置したものであった。本件井戸の井戸管は、二個のコンクリート製の土管であったが、そのうち、地表に近いものは、地上三〇センチメートルくらいの高さがあった(以下「本件土管」という。)。また、本件井戸の井戸管の近くには、本件井戸から水を汲み上げるために四〇〇ワットの電動ポンプ(以下「本件ポンプ」という。)が設置されており、その上を木製の防音カバーで覆ってあった。また、本件井戸の近くには、本件ポンプに電気を供給するために電柱が立てられており(以下「本件電柱」という。)、さらに、被告らが使用するために自ら設置した流しと蛇口も存在した。本件井戸から(四)の土地及び(五)の土地へは本件土地の地下に設置された導水管を通して井戸水が供給された。(甲三の一、二、甲二四、二五、乙一三の一四、四〇、九二、丙三、九の一、一一、一三、三六、証人黒木、被告治彦本人、参加人本人)
(四) (二)ないし(五)の土地には、既に上水道が通じていたので、被告ら、参加人及び真保は、本件井戸の水を風呂、洗濯、自動車の洗車、庭の散水等に使用していた。本件電柱には、本件ポンプの電気メーターが取り付けられており、電気料は、被告良彦、参加人及び真保が三分の一ずつ負担してきた。本件共有地及び本件井戸は、周りを本件土地に囲まれているので、本件土地を通らないと本件共有地及び本件井戸に至ることができず、右電気メーターの検針や、本件ポンプのメンテナンスなどは本件土地に立ち入って行われてきた。(乙一、一三の一四、四〇、九二、丙一三、四七の一の<1>、<2>、被告治彦本人、参加人本人)
3 原告と被告治彦は、平成七年九月ころから、本件土地上にある旧建物を取り壊して建物を新築することについて話し合いを重ね、被告治彦から原告に対し、同年九月二九日に五万円、同月三〇日に一〇〇万円が仮契約金として支払われ(以下合わせて「本件仮契約金」という。)、同年一二月八日、原告は、被告治彦に対し、左記内容の建築請負契約書(甲一、乙一一、以下「本件契約書」という。)を交付したが、被告治彦は、東京都風致地区条例三条に基づく建築の許可(以下「本件風致地区条例許可」という。)があるまで本件契約書には署名しないと言い、平成八年六月六日に本件風致地区条例許可がなされた後、本件井戸を建築工事後も引き続き使用するための切り回しなど一切の工事を原告側で行うこと(以下「本件井戸切り回し合意」という。)や樹木の植え直し、壁紙の変更、建物の引渡時期を平成八年一一月三日とすることなどを確認した確認書(甲二の一、乙一五、以下「本件確認書」という。)を原告の営業担当者である平田一孝(以下「平田」という。)との間で作成し、同月一六日ころ、本件契約書に署名押印し、本件請負契約が成立した(甲一、二七、三二、乙六から一一まで、乙三三、証人平田、被告治彦本人。以下本件請負契約に基づいて建築される建物を「本件建物」という。)。なお、原告は、平成七年一二月八日に本件請負契約が成立したと主張するが、平田の陳述書である甲二〇号証によれば、被告治彦は、同日以後も他の建築会社に注文する可能性を匂わせていたことが認められ、本件契約書への被告治彦の署名押印がなされていない時点で本件請負契約が成立したと認めることはできない。
本件請負契約成立の際、被告治彦は、原告から変更契約書(乙一七、工期を平成八年六月一九日から同年一〇月三一日までとするもの)の交付を受けたが、まだ建築確認がなされていないことを理由に、右変更契約書には署名押印をしなかった(甲三二、乙一六、一七、三二)。原告は、同月二一日ころ、被告治彦に対し、「佐藤治彦邸」最終確定図を送付した(乙一六、一八の一、二)。
記
工事名 佐藤治彦邸新築工事
建築場所 本件土地及び本件共有地
請負代金 四四七九万八四〇〇円
(工事価格四三二八万円、消費税一二九万八四〇〇円、登記申請手続費用二〇万円、印紙代二万円)
代金支払方法
契約時 一〇五万円
平成七年一二月八日 二万円
(印紙代)
平成八年二月二〇日 一二二三万円
(契約残金)
二〇万円
(表示登記料)
一二九万八四〇〇円
(消費税額)
平成八年四月三〇日 一五〇〇万円
(上棟時代金)
平成八年七月三〇日 一五〇〇万円
(竣工時代金)
着工日 平成八年二月二〇日
竣工日 平成八年七月三〇日
遅延損害金 請負者が工期内に工事を完成できないときは、注文者は遅延日数一日につき請負代金総額の二〇〇〇分の一以内の損害金を請求することができる。
4 原告及び被告治彦は、平成八年五月一七日、本件建物の建築について、東京都風致地区条例三条に基づく大泉風致第二種地区内建築物許可申請を東京都知事に対して行い、同年六月六日、八建公公風第一〇六号をもって、右許可(本件風致地区条例許可)がなされた(甲三二、乙一三の一、二)。
5 被告治彦は、平成八年六月一一日、建築基準法六条一項に基づく建築確認申請及び都市計画法五三条一項に基づく建築許可申請を行い、同年七月五日、右各申請に基づく建築確認(以下「本件建築確認」という。)及び建築許可(練馬区許可第八一五号、以下「本件建築許可」という。)がなされた(甲三二)。
6 原告は、本件請負契約成立後、本件土地上にあった旧建物を解体し、平成八年六月二八日に被告治彦立会のうえで地縄を行い(被告治彦に本件建物がその敷地にどのように建築されるかを示すために、本件建物が占有することになる敷地の範囲をロープで囲んだ。以下「本件地縄」という。)、その直後から、本件共有地内に本件建物の基礎が侵入する形で本件建物の建築工事(以下「本件工事」という。)を開始した(甲二二の一、二、甲一九、二四、二五、乙三八から四〇まで、証人平田、同黒木、被告治彦本人)。
7 本件工事は、平成八年八月初めには、基礎工事が終了し、外壁工事、一部の窓工事も行われていたが、そのころ、被告治彦は、原告に対し、建築中の本件建物が、本件請負契約で合意されたものと異なる点がある、特に、本件契約書添付の図面では外壁全体にフルレンガレリーフが入ることになっているのにバルコニーの壁にしか入っていない等の問題があると抗議を申し入れ、その問題の解決のために本件工事は中断した。その後、原告と被告治彦が話し合った結果、同年九月二七日ころ、<1>外壁のレリーフについての解決金二〇〇万円、工事の遅延による損害金一七九万六一二〇円及びクロス変更差額金四六万三〇〇〇円を原告が負担することとして、これを引渡時支払金中から差し引く、<2>それとは別に外構工事契約を締結し、その代金二三四万円を原告が負担する旨の合意が成立した。(甲一〇から一二まで、乙二〇から二二まで、三二、四五から八五まで、証人塚田、被告治彦本人)
8 本件工事による本件井戸の侵害
(一) 参加人は、(四)の土地上の建物を第三者に賃貸しており、参加人自身は、(四)の土地から自動車で一〇分くらいかかる光が丘団地に居住していたが、平成八年九月一七日ころ、(四)の土地を訪れ、本件工事が屋根を載せる寸前まで進行していることに気付くとともに、本件井戸の本件土管が見えなくなっており、本件井戸の近くに設置されていた本件ポンプが取り払われていたので、本件共有地が侵害されているのではないかと考え、練馬区役所で本件風致地区条例許可の申請書類を閲覧し、本件共有地が本件建物の敷地に含まれていることを知った(甲三二、乙一三の一から一九、三九、四〇、四二、四三、丙一三、参加人本人)。
(二) その当時、本件工事は前記のとおり中断していたが、本件井戸の本件土管は取り払われ、本件土管の下に設置されていた土管の口はモルタルで封じられ、その上に本件建物の基礎のコンクリートのベースが敷設されていた。また、本件建物の外壁も一部本件井戸にせり出していた。そして、取り払われた本件井戸の代わりに本件井戸から離れた本件土地の北側角に二五〇ワットの電動ポンプが設置されていた。(甲二四、二五、乙四〇、八八、丙九の二、三、丙一一、一三、証人黒木、参加人本人)
9 参加人、原告、被告らの交渉
(一) 参加人は、原告に対し、平成八年九月二〇日、本件井戸を元の状態に戻すように求め、同月二八日、真保とともに平田ほか原告の担当者と会って、<1>基礎、配水管等井戸部分の敷地に越境しているものはすべて撤去し、本件井戸を元の状態(井戸枠、本件ポンプを含む)に戻すこと、<2>本件井戸の敷地の地上権(上空権)を確保する(軒、シャッターボックス等の越境は不可)こと、<3>隣地((四)、(五)の土地)から本件井戸までのアクセスを確保することを求めた(甲二〇、二一、二四、二五、乙二三、丙一三、証人平田、同黒木、同塚田、参加人本人)。
(二) しかし、原告は、右参加人らからの要望には応じなかったので、参加人は、相馬功、杉田禎浩両弁護士(以下「相馬弁護士ら」という。)に解決を依頼し、相馬弁護士らは、同年一〇月二三日、原告に対し、書面で、<1>本件工事による参加人の本件共有地の持分権に対する侵奪行為を中止し、基礎、土台、壁面、軒庇等による越境状態を解消すること、<2>本件共有地上の井戸穴及び本件ポンプ等の器物損壊行為に関する復旧工事をなすこと、<3>本件建物を本件共有地との境界から五〇センチメートル以上離し、若しくはこれに代わる措置として参加人の納得し得る説明、提案を行うこと、<4>右の<1>から<3>に関する具体的方法を原告の責任ある立場の者の書面で回答することを求め、その理由として、<1>本件共有地を参加人に無断で本件建物の敷地及び下水用配水管の設置場所とし、本件共有地を侵奪した(刑法二三五条の二)こと、<2>本件共有地に存在した参加人が四分の一の持分権を有する本件井戸及び本件ポンプを破壊し、器物を損壊した(刑法二六一条)ことを指摘した(甲三の一、二、丙一一、以下参加人本人及び相馬弁護士らからの抗議を「本件抗議」という。)。
(三) 原告は、右相馬弁護士らの書面に対し、原隆男、吉永英男両弁護士(以下「原弁護士ら」という。)に対し、対応を依頼し、原弁護士らは、同年一一月七日、相馬弁護士らに対し、書面で、<1>本件共有地を本件建物の敷地の対象とすることは、被告治彦の依頼によるものである、<2>被告治彦の認識の根底には、本件共有地は土地の共有を主眼としたものではなく、本件井戸からの井戸水の供給にあづかることを専ら目的としたものとの考え方があると推測される、<3>被告治彦は、本件共有地について分割請求の意向を原告に伝えてきている、<4>原告は、被告治彦の指示と民法上の境界からの距離を置くことの規制は専ら建物敷地間のものであって、井戸共用地とのものではないとの認識のもとで本件風致地区条例許可の申請をしたものである、<5>被告治彦は本件共有地について共有物分割請求を意図する発言をしており、また、本件井戸からの水の供給にも将来とも支障を生ずることのないような措置がとられていて共有者らに与える損害は何らない事案なので、不動産侵奪にも条例にも反しない、<6>しかし、本件建物の建築現場で紛争が生じていることは原告として不本意であり、遺憾というほかないので、本件請負契約を締結している被告治彦と協議するので、暫時の猶予をお願いしたい旨回答した(甲四の一、二)。
(四) その後、原告は原弁護士ら、被告治彦は最初加戸茂樹弁護士、後に原後山治弁護士を代理人として本件抗議に対する対応を中心とする本件請負契約に関する問題を協議したが、被告治彦は、原告に対し、本件共有地に本件建物を建築することはできない旨明確に繰り返し伝えてあると主張した。そして、責任が原告にあるのか被告治彦にあるのかの問題は別として、本件共有地に侵入していると考えられる本件建物の基礎や外壁を削る方向で協議が進んだが、本件抗議の内容によれば、本件建物の基礎や外壁を削るだけでは参加人との間の紛争は解決せず、本件土地と本件共有地との境界の確定、本件共有地と本件建物の外壁との距離を五〇センチメートル以上離すこと、本件ポンプの位置の原状回復などの問題が残るうえ、原告は被告治彦から本件仮契約金一〇五万円の支払しか受けずに本件工事を施工しており、仮に本件工事を続行するとしても、本件抗議に反して工事を強行することによって生じる新たな費用負担をどうするかという問題が残った。
(甲五から一二まで、乙二五、二六。枝番のあるものは枝番を含む。)
(五) そして、被告治彦の代理人として原告と交渉していた原告弁護士が平成九年五月一三日に辞任し、被告治彦自身も、本件抗議の問題を解決するのは不可能である旨原弁護士らに連絡をしてきたので、原弁護士らは、原告の代理人として、被告治彦に対し、平成九年五月二七日到達の書面で、本件請負契約を履行することは不可能になったとして、本件請負契約を解除する旨の意思表示をした(以下「本件解除」という。甲一三の一、二)。
(六) 被告治彦は、平成九年五月二九日、原告に対し、原弁護士らと原後弁護士との間で話し合われていた同年四月付けの覚書を受け入れることにした旨書面を送付し、原弁護士らと協議を申し入れた(以下「本件受諾申入れ」という。)が、原弁護士らは、右覚書は、原後弁護士が介在することが前提であり、原後弁護士が辞任した以上、覚書を維持することは不可能と考える旨返答し、その後、原告は、建築中の本件建物を解体、撤去した(甲一四、二一、乙二七から三〇まで、証人塚田、被告治彦本人)。
10 原告は、本件請負契約は、原告と被告らとの間で締結されたとして、東京地方裁判所に対し、本件解除による損害賠償請求権を請求債権として被告良彦所有の本件土地及び本件共有地の被告良彦の持分について仮差押えを申し立て、平成九年六月二六日、仮差押決定を得た(本件仮差押え、乙三一)。そして、同年七月八日、本件訴訟を提起した。
二 当事者の主張
1 本訴について
(一) 請求原因
(1) 被告治彦は、平成七年一二月八日、原告と本件請負契約を締結した。
(2) 被告治彦は、本件契約書に「代表佐藤治彦」と署名することで、被告ら全員のためにすることを示した。
(3) 被告良彦、被告治子及び被告真理子は、本件請負契約の締結に先立ち、本件請負契約締結についての代理権を被告治彦に授与した。
(4) 被告治彦は、本件請負契約締結に際し、原告に対し、本件共有地は本件井戸の使用権のようなものであるから、井戸の使用さえできれば本件共有地を本件建物の敷地として利用しても問題はない、として、本件共有地を建築敷地に含ませることを強く指示した。そこで、原告は、本件建物の基礎を本件井戸に跨るように施工したが、平成八年九月二〇日ころから、参加人から本件抗議を受けるに至り、本件工事を中断して被告らに紛争の円満解決を促した、。しかし、被告らは、原告に対し、参加人との共有地紛争を解決することは到底不可能である旨通告するに至ったので、本件請負契約の履行は被告らの責任により社会通念上不可能となった。)
(5) そこで、原告は、平成九年五月二七日到達の書面で、本件解除の意思表示をし、建築途中の本件建物を解体、撤去した。
(6) 原告は、本件解除により、左記のとおり、合計二一一一万七二〇〇円相当の損害を被った。
記
<1> 工事費相当損害金 合計二一四六万七〇〇〇円
内訳
ア 仮設工事費小計 七三万七四二四円
イ 基礎工事費小計 一五三万五七三八円
ウ 外部土間コン打工事費小計 七万三〇〇八円
エ 組立工事費小計 三〇七万〇五二一円
オ 駆体工事費小計 一〇二八万八六二〇円
カ ハウス材運搬費小計 八〇万七八四〇円
キ 設備工事費小計 二七万八四三四円
ク 測量費等諸費用小計 二九万一六〇〇円
ケ 既存木造解体工事費小計 一五八万四〇〇〇円
コ 仕掛建物解体工事費小計 二八〇万〇〇〇〇円
<2> 右アないしケの合計金に対する三パーセント及び右コに対する五パーセントの割合による消費税合計額相当の損害金合計
七〇万〇〇一五円
<3> 右<1>及び<2>の合計額から、本件仮契約金一〇五万円を控除した残金
二一一一万七二〇〇円
(7) 被告らの原告に対する損害賠償義務は、本件請負契約という商行為に起因するものである。
(8) したがって、原告は被告らに対し、連帯して、二一一一万七二〇〇円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成九年七月一六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うよう求める。
(二) 請求原因に対する認否及び反論
原告と被告治彦との間に本件請負契約が締結されたこと及び本件契約書に被告治彦が「代表佐藤治彦」と記載したことは認めるが、その余は争う。
本件契約書には、契約の日として、「平成七年一二月八日」の記載があるが、実際に被告治彦が署名押印をして本件契約書を原告に渡したのは平成八年六月一六日ころであり、そのころ本件請負契約が成立した。
本件請負契約の注文者は被告治彦のみである。本件請負契約についての原告との交渉は、一貫して被告治彦が行っており、本件契約書には、被代表者の表示もなく、委任状も添付されておらず、本件契約書の工事名も「佐藤治彦邸新築工事」となっているのであるから、「代表佐藤治彦」という記載だけから、被告治彦が他の被告らの代理人として本件請負契約を締結したことにはならない。
原告は、甲一四号証の見積書(以下「本件見積書」という。)をもって損害額の根拠としているが、本件見積書は、原告自ら作成したものであり、出来高を構成する材料費と工賃の金額、原告の利益の金額は明らかでなく、原告の損害の根拠とはならない。
(三) 抗弁
(1) 過失相殺
ア 仮に、被告治彦が本件共有地を敷地に含めるよう指示したとしても、本件共有地は、登記簿上共有地として登記されており、共有者が明示されていたのであるから、ハウスメーカーである原告としては、共有者に対し、事前に意思確認をすべきであったのであり、しかも、右意思確認は容易になし得たのにこれをしなかった。
イ 建築中の本件建物は、本件共有地にかからないように修正する余地があったし、被告治彦は、本件受諾申入れにより、原告の申し出をすべて受け入れる旨回答しており、原告も参加人から本件建物を直ちに収去するように迫られていたわけでもなかったから、本件建物を取り壊す必要はなかったにもかかわらず、原告は本件建物を取り壊したものである。
しかも、原告は、再利用が可能と思われるALC板、軸、外壁、サッシ、足場、養生シート等を廃棄した。
これらは、原告が自らの行為によって損害を拡大したものというべきである。
ウ ア、イのような原告の過失は、損害算定にあたって斟酌されるべきである。
(2) 相殺
被告治彦は、平成一〇年一〇月一五日の本件第九回口頭弁論期日において、原告に対し、本件仮契約金一〇五万円の返還請求権と原告主張の損害賠償請求権を対当額で相殺する旨の意思表示をした。
(四) 抗弁に対する認否
争う。
2 反訴について
(債務不履行)
(一) 請求原因
(1) 被告治彦は、平成八年六月一六日ころ、原告との間で本件請負契約を締結した。
(2) 本件請負契約においては、竣工日は平成八年七月三〇日と定められていたが、原告は同日までに本件建物を完成しなかった。
(3) したがって、被告治彦は、本件請負契約の遅延損害金の定めに基づき、原告に対し、平成八年七月三一日から本件建物の完成まで、請負代金の二〇〇〇分の一に満たない金額であることが明らかな一日当たり二万一〇〇〇円の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。
(4) 建物変更の合意
ア 原告は、平成九年三月二五日、被告治彦に対し、本件請負契約に基づいて建築する建物について、別紙図面(一)記載の建物(以下「本件変更建物」という。)に変更することを申し入れた。
イ 被告治彦は、同年五月二九日、原告の右申入れを承諾した(本件受諾申入れ)。
(5) したがって、被告治彦は 本件請負契約及び右(4) 記載の建物変更の合意に基づき、本件変更建物の建築を求めるとともに、右(3) 記載の遅延損害金の支払を求める。
(二) 請求原因に対する認否
争う。
(三) 抗弁(本件解除)
原告は、本訴の請求原因記載のとおり、本件請負契約の履行は、被告治彦の責任により、社会通念上不可能となったので、平成九年五月二七日、被告治彦に対し、本件解除の意思表示をした。
(四) 抗弁に対する認否
本件解除の有効性を争う。
被告治彦は、原告との交渉開始当初から、本件土地には本件共有地が隣接しているので、これを避けて本件建物を建築すべきことを再三原告に要請していた。
したがって、解除原因はなく、本件解除は無効である。
(不法行為)
(一) 請求原因
(1) 本件請負契約は、原告と被告治彦の間でのみ締結されたものであり、また、原告は被告治彦の要請に反して本件共有地に本件建物を建築したものであるから、自らの責めに帰すべき事由によって債務の履行を遅滞していたものである。
(2) 原告は、(1) の点で事実的・法律的根拠を欠くものであることを知りながら、または通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのに、敢えて本件仮差押えの申立て及び本件訴訟の提起に及んだ。
(3) 被告らは、原告による(2) の不法行為により、左記のとおり、合計九〇〇万円相当の損害を被った。
記
ア 弁護士費用 金五〇〇万円
イ 慰謝料 金四〇〇万円
(4) したがって、被告らは、それぞれ原告に対し、右損害の三分の一に当たる二二五万円及びこれに対する本件訴訟提起の日(不法行為の日)である平成九年七月八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(二) 請求原因に対する認否
争う。
3 参加請求について
(妨害予防)
(一) 請求原因
(1) 参加人が共有持分権を有する本件共有地と、本件土地は境界を接している。
(2) 原告及び被告らは、本件請負契約を締結し、本件風致地区条例許可、本件建築確認及び本件建築許可を取得したが、その内容は、本件建物の基礎等が本件共有地を侵害する形になっており、参加人の本件共有地に対する共有持分権を侵害するものである。
(3) 原告は、本件建物の工事を取りやめて建築中の建物を解体したが、被告らは、約三年が経過した現在においても、未だ東京都に対して本件風致地区条例許可に関する「取り下げ願い書」、及び、練馬区に対して、本件建築許可に関する「工事取りやめ届け」を提出しておらず、また、被告治彦は、反訴請求で本件請負契約に基づく請負債務の履行を請求しているから、再度、原告及び被告らにより、参加人の本件共有地に対する共有持分権を侵害する工事がなされる可能性がある。
(4) 本件共有地と本件土地との境界あるいは所有権の範囲を画する線は、別紙図面(二)表示<イ>、<ロ>、<ハ>、<ニ>、<ホ>、<ヘ>、<ト>、<チ>、<リ>を結ぶ線(以下「参加人主張線」という。)である。
(5) したがって、参加人は、本件共有地の共有持分権に基づき、原告及び被告らに対し、参加人主張線から上空を含めて五〇センチを越えて近接する建物の建築をしないよう求めるとともに、被告治彦に対し、本件風致地区条例許可及び本件建築許可の取下申請をするよう求める。
(二) 請求原因に対する認否(原告及び被告ら)
請求原因(1) は認めるが、その余は争う。
民法二三四条は、木造建造物の密集による火災の危険を回避しようとするものであるから、住居が隣接することが前提である。本件共有地は、井戸が設けられている面積一・〇九平方メートルの土地に過ぎず、将来的に地上構築物が築造される可能性はないから、本件共有地に関しては、同条は適用されない。
(三) 抗弁(原告及び被告ら)
(1) 建築基準法六五条に基づく適用除外
ア 本件共有地及び本件建物の建築対象地は、準防火地域内にある。
イ 本件建物は、耐火外壁の建物となる計画である。
ウ したがって、建築基準法六五条に基づき、本件建物は本件共有地に接して建築することができる。
(2) 権利濫用
ア 本件共有地の面積は、一・〇九平方メートルに過ぎず、参加人の本件共有地の持分は四分の一であるから、その持分権の価額は一〇万円に過ぎない。
イ 参加人としては、将来的に本件井戸の井戸水の供給が確保されれば、その不利益は皆無又は著しく軽微である。
ウ 参加人の請求を認めると、一定の広さの建物を建築しようとすれば建物の東側側壁を距離保持分に適合するよう大きく凹ませることになり、その結果、構造上の強度が低下し、建築費が上昇する等の不利益が生じる。
エ 被告らは本件土地上に建築のめどが立たないまま、借家住まいを強いられており、約八五〇〇万円もの価額の資産を有効に活用できない状態が継続している。
オ したがって、参加人の請求は、経済的、倫理的に許容され得ない。
(四) 抗弁に対する認否
争う。
(不法行為)
(一) 請求原因
(1) 器物損壊
原告及び被告らは、参加人の承諾を得ることなく、本件土管、本件井戸密封用のコンクリート板、本件ポンプ、配管、本件電柱、電線等を損壊し、参加人のこれらの物に対する所有権(四分の一の持分権)を侵害した。
(2) 不動産侵奪
原告及び被告らは、参加人の承諾を得ることなく、本件共有地を敷地とする本件請負契約を結んだうえ、本件建物を建築した。
(3) 人格権侵害
原告及び被告らは、敢えて(1) (2) のように、参加人の所有権等を侵害し、参加人に多大の精神的苦痛を与えた。
原告及び被告らは、敢えて違法な行為を隠して、真実を告げず、また資料を提出せず参加人に真相発見のための多大な精神的苦痛を与えた。
(4) 名誉毀損
被告らは、本件訴訟の過程において、参加人について次のような虚偽の事実を主張することによって、その名誉を毀損した。
記
<1> 「深夜でも早朝でも、寝室から見えるところまで入ってきて、外からなんですけども、どんどんたたかれたり、非常に怖い思いをしました。あと、母が中本さんのうちの中に腕をつかまれて連れ込まれ」(第七回口頭弁論における被告真理子の供述)
<2> 「ことあるごとに自宅の敷地に入り込んできて難癖を付けていく」(被告真理子による陳述書(乙三三))
<3> 「どなり込んで来られるときにはいつも六法全書を持ってどなり込んでこられる」(第七回口頭弁論における被告治彦の供述)
(5) 共謀
原告及び被告らは、(1) ないし(4) の行為を共謀して行った。
(6) 損害の発生
以上の原告及び被告らの不法行為により参加人には次の内容の損害が発生した。
記
弁護士費用 三〇〇万〇〇〇〇円
調査費及びその他経費 三〇〇万〇〇〇〇円
慰謝料 三〇〇万〇〇〇〇円
井戸設備の電気工事費用 一〇万八一〇〇円
井戸設備のその他の費用 三三万六六九八円
測量関係の費用 一二四万七七九七円
合計 一〇六九万二五九五円
(7) したがって、参加人は原告及び被告らに対し、連帯して一〇六九万二五九五円及びこれに対する不法行為の日(本件地縄の日)である平成八年六月二八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(二) 請求原因に対する認否(原告及び被告ら)
争う。
第三判断
(本訴請求について)
一 本件請負契約の注文者について
1 甲一号証及び乙一一号証によれば、本件契約書の注文者欄に「代表佐藤治彦」と記載されていることが認められ、甲二号証の二によれば、本件風致地区条例許可の申請のために作成された東京都知事宛ての事情書には、被告ら全員の氏名が記載されたうえで、被告治彦の氏名の前に「代表」と記載されていることが認められる。
また、甲二号証の一、乙一五号証によれば、本件確認書には、「契約は契約者代表として佐藤治彦としますが、登記など正式には、他に良彦、治子、真理子の四名の共有とします。その手続きをお願いします。」との記載があることが認められる。
さらに、前記前提事実(第二の一)並びに被告治彦及び被告真理子各本人尋問の結果によれば、本件建物の敷地となる本件土地は被告良彦の所有であり、被告らは全員で本件建物に居住する予定であったことが認められる。
2 しかし、本件契約書には、被告治彦以外の被告らの氏名は記載されておらず、甲二七、三二号証、乙一三号証の一、二、証人平田、同塚田の各証言、被告治彦及び被告真理子各本人尋問の結果によれば、<1>原告は、被告治彦が本件契約書に署名をする時点までは、被告治彦のみが注文者になると認識していたこと、<2>原告は、複数の注文者があるときは、基本的には契約者全員の名前を契約書に記載し、全員の署名押印をもらうことにしていること、<3>被告良彦、被告治子、被告真理子が注文者になることについて、原告が直接右被告らに確認したことはなく、委任状や署名押印を求めたこともないこと、<4>本件風致地区条例許可の申請は、被告治彦のみの名で行っており、事後的にも他の被告らから署名押印や委任状を求めたことはないこと、以上の事実が認められる。
そして、原告が本件請負契約に関する交渉の相手方としてきたのは、終始被告治彦のみであり、本件仮契約金も被告治彦から受領したものであることは、前記前提事実記載のとおりである。
3 右2の事実によれば、右1の事実があったからといって、被告治彦が他の被告らを代理して本件請負契約を締結したものと認めることはできないし、他の被告らが被告治彦に本件請負契約締結についての代理権を授与したと認めるに足りる証拠も存しない。
4 したがって、本件請負契約は、原告と被告治彦との間に成立したものと認められるから、原告の被告治彦以外の被告らに対する請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。
二 被告治彦の債務不履行の有無について
1 建物建築請負契約にあっては、注文者は、建物の建築を注文する以上、右建築が可能となるような土地を提供する協力義務が本質的に含まれていると解すべきであり、右協力義務には、注文者において建築を困難ならしめる事情があらかじめ客観的に予想される場合には、請負人に対して適切な方法によりこれを告知するなどして、注意を促す義務が含まれているというべきである。
そして、前記前提事実、丙一三号証、被告治彦、被告真理子及び参加人各本人尋問の結果によれば、被告らと参加人とは、本件ポンプの騒音問題等、本件井戸の使用を巡って険悪な関係になっていたことが認められ、本件建物の建築をするに当たり、建築の仕方によっては、本件共有地や本件井戸を巡って参加人との間に紛争が生じかねないことは、被告治彦の容易に予想しうるところであったと認められるので、被告治彦としては、本件請負契約締結に当たり、原告に対し、参加人との間の紛争の可能性を告知するとともに、紛争が生じないような建築方法を指示すべき義務があったものというべきである。
2 そこで、被告治彦がそのような義務を履行したと言えるかどうかについて検討すると、前記前提事実、甲一号証、二号証の一、一六号証の一、二、甲一八、一九号証、二二号証の一、二、甲二四、二五、三二号証、乙一〇、一一、一五号証、証人平田、同黒木、同塚田、同村上の各証言によれば、次の事実が認められる。
(一) 原告は、本件建物の建築の障害となりうる本件共有地の存在を事前に知り、平成七年九月二二日のプラン打ち合わせの時点で、担当者であった平田から被告治彦に対し、現状の設計では本件共有地に建物が掛かるが、問題はないかどうかを確認した。これに対して、被告治彦は、本件共有地の存在を認めたうえ、これは井戸の使用権のようなものなので共有地に掛かって建物を建築しても問題はない旨返答した。
(二) かかる返事を聞いて、平田は、敷地の一部として建物の土台を本件共有地に掛からせても、本件井戸を井戸として使用し続けるには問題がないので、本件共有地に掛けて本件建物の土台を建築しても構わないと認識した。
(三) そこで、本件契約書には、本件建物の敷地に本件共有地が含まれるものとして記載され、本件風致地区条例許可、本件建築許可及び本件建築確認の各申請も、本件共有地が本件建物の敷地に含まれるものとして行われた。
(四) 原告は、平成八年五月三一日の最終打ち合わせの時点において、担当者であった平田や黒木を通じて、再び被告治彦に対して、本件契約書添付の敷地図、配置図等を示しながら、本件共有地に本件建物が掛かることについて問題がないかを確認したところ、被告治彦は再び問題ないと返答した。
(五) 平成八年六月二八日の本件地縄の際、原告は、再び担当者であった黒木を通じて、本件建物の基礎のフーチング(コンクリートのベース)が本件共有地に掛かってしまうが問題はないかと被告治彦に確認したところ、被告治彦は、井戸に掛かっても特に問題ないので、図面通りやってもらわないと困る旨返答した。
(六) そこで、原告は、被告治彦の指示に従い、参加人及び真保に一切確認することなく、本件土管をはずして基礎工事を実施するなど、前記前提事実8記載のとおり、本件井戸に変更を加える工事を行った。
(七) 右工事は、平成八年九月一七日ころ、参加人の知るところとなり、原告は参加人から本件抗議を受けることになった。その後の経過は、前記前提事実9記載のとおりであり、本件抗議の問題を解決するため、原告と被告治彦がそれぞれ弁護士に委任して交渉したが、結局、被告治彦において本件抗議の問題を解決することは不可能であるとの見解が示されたので、原告は、本件工事の続行は不可能になったと判断して、平成九年五月二七日、被告治彦に対し、本件解除の意思表示をした。
右事実によれば、被告治彦は、本件請負契約に基づく注文者としての義務に反し、原告が本件請負契約に基づいて本件建物を建築することが不可能な土地を提供し、しかも、被告治彦の指示が招いた本件抗議の問題を解決することもできなかったために、結局本件工事の続行が不可能になったものというべきであり、被告治彦のそのような債務不履行を理由とする本件解除はその効力を有するものというべきである。
3 被告治彦は、右2の事実認定と異なる次のような供述をしている(被告治彦本人)。
(一) 参加人とのトラブルを避けるため、原告に対し、平成七年九月二二日の打ち合わせの時から、再三本件共有地の存在を指摘し、本件建物の建築に当たっては、本件共有地を避ける旨要請し、原告もこれを了解していた。
(二) 本件建物の基礎が本件共有地に侵入していることは、平成八年六月二八日の本件地縄の際に初めて知った。そこで、これに対して原告に異議を述べたところ、原告から、同じ大きさの建物を西側に移すという提案がなされたが、既に工事も約一年遅れており工事の完成をいそいでいたことから断った。
(三) 建物を西側に移す代わりに、原告から、土台を削れば構造上も法的にも問題ないと言われたことから、土台を削る方法で対応することにしたが、実際に建築開始後も削られていなかったので、原告に対し土台を削るよう再三要求した。
しかしながら、右供述は、次のような点からもこれを信用することはできない。
(一) 2で認定したとおり、本件契約書からも、本件風致地区条例許可、本件建築許可及び本件建築確認各申請書からも、本件共有地が本件建物の敷地となっていることは明らかであり、被告治彦が本件地縄のときまでこれを知らなかったとは考えられない。
(二) 被告治彦が当初から原告に本件共有地を避ける旨要請していたのであれば、他の確認事項を詳細に記載してある本件確認書(甲二の一、乙一五)に書かれていてしかるべきであるところ、本件確認書には、本件共有地に関する記載は一切ない。
(三) 本件確認書には、本件井戸について、本件井戸切り回し合意が記載されており、被告治彦は、本件井戸の使用が継続的に可能であるならば、本件共有地に本件建物が掛かることについては問題がないと考えていたことが推認できる。
(四) 前記前提事実によれば、本件共有地は、本件井戸のためにだけ存在し、しかも、本件共有地は、周りを本件土地に囲まれていて、本件土地を通らないと本件共有地に至ることができないものであったから、被告治彦の認識として、参加人や真保の権利は本件井戸の使用権に尽きると考えていたとしても、何ら不自然とはいえない。
4 したがって、原告は、被告治彦に対し、被告治彦の債務不履行により原告が被った損害の賠償を求めることができるものというべきである。
三 原告の損害について
1 前記前提事実、甲一四号証、証人塚田の証言及び弁論の全趣旨によれば、本件解除時において、本件工事は、基礎工事が終了し、外壁工事、一部の窓工事も行われており、本件建物の解体、撤去時までに原告の負担に帰した工事費(原告の利益も含む)は、合計二一四六万七一八五円(一〇〇〇円未満の端数を切り捨てれば二一四六万七〇〇〇円)であったことが認められる。
2 前記前提事実記載のとおり、原告は、参加人から不動産侵奪罪あるいは器物損壊罪に問われており、その原因を作った被告治彦が本件抗議に関する問題の解決は不可能であるとの見解を示し、参加人は東京都に対して本件風致地区条例許可関係の書類の公開を求めて原告の刑事責任を追及しようとしていた(丙一一、参加人本人)のであるから、原告が参加人からの追及を避けるために本件建物を解体、撤去したこと自体は、やむを得ないものといわざるを得ないが、本件建物の本件共有地への侵入部分はごく一部であり、参加人は、本件建物全部の撤去を求めていたわけではない(参加人本人)し、撤去すべき建物の範囲について被告治彦と協議できない状況があったわけでもないのであるから、原告が被告治彦と協議もしないで本件建物全部を解体、撤去した以上、被告治彦としては利用価値があり、残置して欲しいと判断する可能性のある建物部分まで撤去した可能性を否定できない。
3 また、前記前提事実7記載のとおり、原告は、本来、外壁のレリーフについての解決金二〇〇万円、工事の遅延による損害金一七九万六一二〇円及びクロス変更差額金四六万三〇〇〇円を負担し、二三四万円に相当する外構工事を行う義務も負担していたものであり、本件請負契約は解除になったとはいえ、本件工事の出来高を算定する際には、右の事情をまったく無視することは相当でない。
4 右1ないし3によれば、被告治彦に帰すべき原告の損害は、前記認定の工事費二一四六万七〇〇〇円の半額である一〇七三万三五〇〇円と認めるのが相当である。
5 過失相殺
前記前提事実、証人平田、同黒木、同村上の各証言によれば、原告は、住宅建築請負を専門とする株式会社であるところ、本件請負契約についての交渉の当初から本件共有地の存在を知っていたにもかかわらず、直接参加人及び真保の確認を取ることなく、ただ被告治彦の言のみを軽信して本件共有地に本件建物の土台や外壁が掛かる設計をし、施工をしたものであることは明らかである。原告は、建築請負の専門家として、契約当事者間の問題にとどまらない相隣関係上の問題については、事前に確認をし、問題となりうる点は直接本人に確認しておくべきであったと言うべきであり、原告が被った損害の一部は原告にも帰責されるというべきである。そして原告の過失割合としては、右に述べたような原告の過失の内容から判断して、三〇パーセントとするのが相当である。
したがって、過失相殺後の被告治彦の賠償すべき損害額は七五一万三四五〇円となる。
6 相殺
本件解除により、被告治彦は、原告に対し、本件仮契約金一〇五万円の返還請求権を取得したものというべきであり、被告治彦が本件第九回口頭弁論期日に右返還請求権と原告の損害賠償請求権を対当額で相殺する旨の意思表示をしたことは本件記録上明らかである。
したがって、右相殺後の被告治彦の賠償すべき損害額は、六四六万三四五〇円となる。
四 以上によれば、原告の本訴請求は、被告冶彦に対し、六四六万三四五〇円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成九年七月一六日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余の請求は理由がない。
(反訴請求について)
一 債務不履行を理由とする請求について
被告治彦は、本件請負契約が存続していることを理由に、原告に対し、本件変更建物の建築を求め、本件工事の遅延を理由とする遅延損害金の支払を求めているが、先に判示したとおり、本件解除の意思表示は有効であり、本件請負契約は終了しているので、その余の点について判断するまでもなく被告治彦の右請求はいずれも理由がない。
なお、被告治彦主張の本件受諾申入れは、本件解除後のものであるし、右申入れの前提となる覚書の内容も確定したものではなく、右申入れ自体にも条件がついていた(前記前提事実、甲一〇、乙二七)のであるから、本件受諾申入れにより、原告と被告治彦との間に被告ら主張のような合意が成立したものと認めることはできない。
二 不法行為を理由とする損害賠償請求について
1 原告は、本件請負契約が原告と被告らとの間に成立したとして本件仮差押えを申し立て、本件訴訟を提起したことは、前記前提事実10記載のとおりである。
2 しかし、本件請負契約の注文者については、本件訴訟における証拠調べの結果からは、被告治彦が他の被告らの代理人として本件請負契約を締結したとは認められないという判断にはなったが、本訴請求についての判断一、1で認定したような事実も存在していたのであるから、これを根拠に被告ら全員が本件請負契約の注文者であると判断してなされた本件仮差押えの申立てや本件訴訟の提起が不法行為を構成するような故意・過失があったとまで認めることはできない。また、被告治彦に本件請負契約の債務不履行があったことは先に判示したとおりであるから、原告の請求は根拠のあるものであったというべきである。
3 したがって、被告らの原告に対する不法行為を理由とする損害賠償請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。
(参加請求について)
一 参加人の請求のうち、原告及び被告らに対し、参加人主張線から上空を含めて五〇センチメートルを越えて近接する範囲内に建築物を建築しないよう求める請求並びに被告治彦に対し、本件風致地区条例許可及び本件建築許可の取下申請を求める請求は、本件請負契約に基づき、本件風致地区条例許可及び本件建築許可を前提として本件変更建物の建築を求める反訴請求が認容されれば、本件共有地についての共有持分権を侵害されることになる参加人の参加請求として適法なものというべきであるが、損害賠償請求は、本訴請求及び反訴請求の目的とは関係のない独立した請求であり、本来別訴で請求されるべきものであるが、原告及び被告らも他の参加人の請求と併合して審判することに異議がないので、単純併合された請求として判断することとする。
二 妨害予防について
1 共有持分権者による妨害予防請求の可否
共有関係において、各共有者はそれぞれその持分権を有するから、自己の持分権に対する具体的な侵害のおそれがある場合には、その持分権に基づき、第三者に対しても、他の共有者に対しても物権的請求権としての妨害予防請求権を行使することができるものというべきである。
2 本件共有地の範囲
(一) 前記前提事実2によれば、本件共有地は、本件分筆によって生じたもので、見留は、本件井戸を設置するために本件共有地を分筆したものであることが認められる。
(二) 前記前提事実2、甲一八、一九、二五号証、乙一、四号証、丙八号証の一、二、一四号証の一、二、丙一八から二五号証(枝番のあるものは枝番を含む。)、二七号証の一から三まで、三六号証、被告治彦及び参加人各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、<1>本件分筆は、土地家屋調査士である川上丘寿(以下「川上」という。)の測量(以下「本件測量」という。)によって地積測量図(甲一八、以下「本件地積測量図」という。)が作成され、右測量図に基づいて分筆登記がなされたものであること、<2>本件測量は、本件分筆の一年前に実施されており、本件井戸は、本件測量後に敷設されたものと考えられること、<3>参加人は、本件訴訟において参加人主張の本件共有地を特定する必要から、川上に本件共有地の再測量を依頼したが、その結果は、別紙図面(二)表示のとおり、本件井戸は、本件地積測量図に表示された本件共有地から南側にはみ出していたこと、<4>被告ら、参加人及び真保を含む本件共有地の歴代の持分権者は、本件井戸は本件共有地の中にあるものと考えてきたこと、<5>参加人は、本件共有地の登記簿上の面積一・〇九平方メートルを維持しながら、本件井戸及び井戸ポンプを本件共有地に収めるためには、公図上の本件共有地の形状や本件地積測量図とは異なるが、参加人主張線をもって本件共有地と本件土地との境界とするほかないと考えていること、<6>参加人は、参加人主張線は、時効取得した土地ということで理解することも可能ではないかと考えていること、<7>しかし、被告治彦は、参加人主張線をもって本件共有地と本件土地との境界と認めることはできないと考えていること、以上の事実が認められる。
(三) 右事実によれば、被告らも了承するのであれば、本件土地及び本件共有地を分筆、合筆し、参加人主張線を本件共有地と本件土地との境界として現状に合致させることは合理性があるものと考えられるが、それをしない以上、現在の本件共有地の位置は、別紙図面(二)に地積測量図共有地境界として表示されているとおりであるというほかない。なお、前記前提事実2記載のとおり、本件ポンプや、本件電柱、導水管のような本件井戸利用のための設備は、本件共有地の中ではなく、本件土地に設置されており、そのことは共有者全員が理解していたものと解されるので、それらが設置されているからといって、その設置場所が時効取得の対象となるとは考えられない。
3 妨害予防請求について
(一) 原告に対する請求について
参加人は、原告に対して建築物の建築禁止を求めるが、先に判示したとおり、本件請負契約は本件解除により終了し、原告は建築中の本件建物を解体、撤去したのであるから、原告が参加人主張のような土地範囲に建築物を建築するおそれがあるとは認められないので、参加人の原告に対する建築物の建築禁止を求める請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。
(二) 被告らに対する請求について
(1) 被告治彦が、本件共有地の共有持分権について、本件井戸の使用権のようなものであるという認識を持ち、原告に本件共有地を本件建物の敷地とすることを指示したこと並びに本件土地及び本件共有地は被告良彦の所有であり、本件建物が被告ら全員の居住用であったことは先に認定したとおりであるから、弁論の全趣旨によれば、被告ら全員が被告治彦と同様の認識を有していたものと解される。そして、参加人と被告らとの間には、本件共有地の位置を巡る争いがあるのであるから、被告らが本件共有地に侵入して建築物を建築するおそれがあることは否定できない。
(2) そこで、前記2で認定した本件共有地のうち、参加人の主張する範囲内の土地、すなわち、本件共有地のうち、別紙図面(二)表示<イ>、<A>、<B>、<C>、<イ>の各点を結ぶ直線で囲まれた土地内に被告らが建築物を建築することを禁じるのが相当である。
(3) 参加人は、境界から五〇センチメートル離すことを求めているが、本件土地及び本件共有地は準防火地域内にあり、本件建物は耐火外壁の建物で、民法二三四条の適用が排除されることは被告らの主張のとおりであり(甲三二)、被告らが耐火外壁を有しない建物を本件共有地に接して建築する具体的なおそれは認められず、参加人は、境界から五〇センチメートル離すことまで求めることはできないものというべきである。
(4) また、参加人は、本件風致地区条例許可及び本件建築許可の取下申請も求めているが、右各許可を前提とする本件請負契約は解除されているのであるから、本件共有地内への建築物の建築を禁止すれば参加人の共有持分権に対する妨害予防として十分であり、それ以上に右取下申請まで認める必要性はない。また、右各許可が参加人の共有持分権の行使を妨げているとも認められない。
(5) 本件共有地が建物の敷地となれば、本件井戸の利用が妨害されることは明らかであり、参加人の請求が権利濫用である旨の被告らの主張は採用できない。
(6) したがって、参加人の被告らに対する請求は、右(2) の限度でのみ理由があり、その余は理由がない。
三 損害賠償請求について
1 本件井戸の設備の損壊による損害賠償請求について
(一) 共同不法行為の成否
前記前提事実並びに本訴について被告治彦の債務不履行及び過失相殺について判断したところによれば、参加人主張のとおり、本件工事によって本件井戸の設備が損壊され、右損壊については、原告及び被告治彦が共同不法行為責任を負うものというべきである。
被告治彦以外の被告らは、本件請負契約の当事者ではなく、右損壊について原告又は被告治彦と共謀したと認めるに足りる証拠はないので、不法行為責任を認めることはできない。
(二) 損害額
丙一五証の一、二、参加人本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、本件井戸の原状回復のためには、電気工事費用として一〇万八一〇〇円、その他の費用として三三万六六九八円、合計四四万四七九八円が必要であることが認められる。
本来、右費用は、共有者全員が負担すべきものであり、参加人は、自己の持分である四分の一のみを負担すれば足りるものであるが、前記前提事実及び弁論の全趣旨によれば、本件井戸の原状回復に被告良彦の協力を得ることは困難で、結局参加人自ら原状回復を行うしか方法がないものと推認されるので、右費用額全額を参加人の損害と認めるのが相当である。
(三) 遅延損害金の起算点
前記前提事実によれば、本件井戸の設備の損壊は、旧建物解体後である本件地縄時には始まっており、本件地縄時にはその後の損壊も予定されたものと認められるので、不法行為時を本件地縄時である平成八年六月二八日とする参加人の遅延損害金の請求は理由がある。
2 その他の請求について
(一) 不動産侵奪
本件共有地に侵入して本件建物が建築されたことは前記前提事実のとおりであるが、本件建物は、本件解除後、解体、撤去されており、本件井戸の設備の損壊による損害以上に右建築と相当因果関係のある損害を認めることはできない。
(二) 人格権侵害
参加人に対し、慰謝すべき精神的苦痛が発生するほどの人格権侵害がなされたと認めるに足りる証拠はない。
(三) 名誉毀損
本件記録によれば、被告治彦及び被告真理子が参加人主張のような供述をしたことが認められるが、右供述が参加人の名誉を毀損するものとして損害賠償に値するものと評価することはできない。また、参加人自身、本件訴訟において右供述に十分反論し、厳しい表現で被告らを非難していることも本件記録上明らかである。
3 したがって、参加人の損害賠償請求は、本件井戸の設備の損壊による損害賠償請求として、原告及び被告治彦に対し、連帯して、四四万四七九八円及びこれに対する平成八年六月二八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余は理由がない。
四 その他
参加人の文書提出命令の申立ては、取調べの必要性がないのでこれを却下する。
また、参加人は、口頭弁論終結後である平成一二年四月二七日に真保の選定書を提出したが、右選定書の提出は、参加人の請求その他本件訴訟の法律関係に何ら影響するものではない。
(結論)
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 福田剛久)
(別紙)
物件目録
(一) 所在 練馬区大泉学園四丁目
地番 一一八番一一
地目 宅地
地積 一・〇九平方メートル
(二) 所在 練馬区大泉学園四丁目
地番 一一八番一〇
地目 宅地
地積 一二三・七〇平方メートル
(三) 所在 練馬区大泉学園四丁目
地番 一一八番一二
地目 宅地
地積 一二三・一四平方メートル
(四) 所在 練馬区大泉学園四丁目
地番 一一八番一
地目 宅地
地積 一二三・九六平方メートル
(五) 所在 練馬区大泉学園四丁目
地番 一一八番一三
地目 宅地
地積 一二三・九六平方メートル